結婚するときに、婚姻届を書きました。
いやー。間違う間違う。タクミさん。
まず文字を範囲内に書ききれなくてはみだします。
書くべき内容量と記入欄のサイズでだいたい文字の大きさって決まってくる。普通は自然とおさまるように書くものです。でもタクミさんは大きく書きはじめちゃって入りきらないの。そもそもなんだか太い万年筆を使っているのがおかしい。
私のボールペンのほうが細い文字書けるからこっちを使う?
「いや、こういうのは万年筆で書くもんだから」
でもはみだしちゃってるよ。
「そもそもこの枠が小さすぎる。この紙がおかしい」
えええええ。まさかの「婚姻届そのものにクレーム」来た〜!
チェックを入れるべき四角を塗りつぶしたり。書く場所を間違えたり。ハンコを強く押しすぎてやぶったり。
タクミさんは隣にある「記入見本」をみないで書いている。説明書きも読んでいないみたい。
「この婚姻届はわかりにくいね」
いいえ? だって日本国内で結婚する人全員これ書いてるわよ?
「設計がおかしいと思う。もっとわかりやすい仕様があるはずだな」
そんなわけないでしょう。何枚書き損じているの? もうなくなっちゃったじゃない!
「じゃあまた用紙をもらってくればいい」
誰のせいでそんな手間が発生したと思っているの? なんで謝りもしないの?
「なぜ謝る必要があるの? 俺が悪いとは思わないな」
婚姻届に乱雑に文字を書く行為、ハンコを押しすぎて破ること、何度も書き間違って結局仕上がらなかったこと。それが私たちの結婚に対するタクミさんの心のように思えて私はひどく悲しく、泣きました。この人と結婚していいの? 本当にこの人なの?
大泣きして別れて、その日の夜。書き損じの婚姻届をならべて私は考えました。
確かにちょっとわかりにくいかもしれない。
インターネットで検索すると「婚姻届 書き方」で山のようにHitする。裏を返せば書き間違う人が多いということ。書き方アドバイスの1行めに「書き損じたときのためにすこし余分にもらってきましょう」なんて書いてあるし。
タクミさんの仕事はSEです。そして高い評価を得ています。そうか。タクミさんの言っていること、きっと正しいんだな。このちょっとわかりにくい婚姻届、私はまるのみしたけれど「もっとわかりやすい仕様があるんじゃない?」っていう視点は設計のプロとしての発言なのね。明日、婚姻届もう一度もらってこよう。10枚もらってこよう。1枚犠牲にして私が赤字で全部記入したものを作って「この通りに書いて」って言おう。私が悪かったわって謝ろう。
翌日、婚姻届は無事記入できました。
10年前のお話です。ああタクミさんADHDでASDだなあ。私カサンドラだなあ。ここから数年本当にきついのがんばれ。でも結婚したのは間違いじゃなかったよ。